萩原朔太郎\忏悔者的姿态\懺悔者の姿
懺悔者の姿
懺悔するものの姿は冬に於て最も鮮明である。
暗黑の世界に於ても、彼の姿のみはくつきりと浮雕のごとく宇宙に光つて見える。
見よ、合掌せる懺悔者の背後には美麗なる極光がある。
地平を超えて永遠の闇夜が眠つて居る。
恐るべき氷山の流失がある。
見よ、祈る、懺悔の姿。
むざんや口角より血をしたたらし、合掌し、瞑目し、むざんや天上に縊れたるものの、光る松が枝に靈魂はかけられ、霜夜の空に、凍れる、凍れる。
かけられ、痛夜の空に、凍れる、凍れる。
みよ、祈る罪人の姿をば。
想へ、流失する時劫と、闇黑と、物言はざる剎那との宙宇にありて,只一人吊されたる單位の恐怖をば、光の心靈の屍體をば。
ああ、懺悔の淚、我にありて血のごとし、肢体をしばる血のごとし。