北原白秋\蚂蚁\蟻
蟻
おほらかに、
いとおほらかに、
大(おほ)きなる鬱金(うこん)の色の花の面(おも)。
日は真昼(まひる)、
時は極熱(ごくねつ)、
ひたおもて日射(ひざし)にくわつと照りかへる。
時に、われ
世(よ)の蜜(みつ)もとめ
雄蕋(ゆうずゐ)の林の底をさまよひぬ。
光の斑(ふ)
燬(や)けつ、断(ちぎ)れつ、
豹(へう)のごと燃(も)えつつ湿(し)める径(みち)の隈(くま)。
風吹かず。
仰ふげば空(そら)は
烈々(れつれつ)と鬱金(うこん)を篩(ふる)ふ蕋(ずゐ)の花。
さらに、聞く、
爛(ただ)れ、饐(す)えばみ、
ふつふつと苦痛(くつう)をかもす蜜の息。
楽欲(げうよく)の
極みか、甘き
寂寞(じやくまく)の大光明(だいくわうみやう)、に喘(あへ)ぐ時。
人界(にんがい)の
七谷(ななたに)隔(へだ)て、
丁々(とうとう)と白檀(びやくだん)を伐(う)つ斧(をの)の音(おと)。