萩原朔太郎\群鸟\一群の鳥
一群の鳥
遠く行く一群の鳥
かへりみて
我を想へば涙はてなし。
悲しくも人に隱れて
故郷に歌などつくる
我の果敢なさ。
寂しさに少しく慣れて
なにがなし
この田舍をば好しと思へり。
かの遠き赤城を望む
わが部屋の窓に咲きたる
木犀の花。
クロバアの上に寢ころび
空ばかり眺めてありし
中學の庭。
ともすれば學校を休み
泣き濡れて
小出の林を歩きし昔。
その昔よく逢曳したる
公園の側の波宜亭
今も尚あり。
酒のめど
このごろ醉はぬさびしさ
うたへども
ああああ遂に涙出でざり。
いまも尚
歌つくることを止めぬや
かく問ひし
わが古き友の嘲りの色。
新昇のサロンに來り
夜おそく
口笛を吹く我のいとしさ。
時にふと
盃杯を投げてすすり泣く
いとほしやと母も流石思へり。
米專の店に飾れる
馬鹿面の人形に我が似しと
思ふ悲しさ。
死ぬよりは尚よろしかり
とかくして
今日もまた安らかに寢床に入れり
眞劍になりて嬉しと思ふこと
いつの日か
我が身の上にめぐり來たるならむ
公園のベンチにもたれ
哀しみて
遠き淺間の煙を眺む。