萩原朔太郎未发表手记一篇
思ひ切ってとびおりろ。下はナタネの花ざかりだ。
空氣の中を泳ぐひと、
空氣は液體空氣である。
手を合せてをがむ、
をがみ申すから見せてくれ、
あなたの大事のかくしどころを。
これは神に向つてささげる新人の祈禱である。 醉ひどれには燃燒する意志がある。
けれども手段がない。
詩人とは人生の醉ひどれだ。
他人の所有するものを悉く盗め。
盗人をして全く肥えしめるために他入はある。 天才とは生れざる前よりの大盗である。
突つ込んで行くまへに用意がある。
自然の假面の前に汝のリズムは凝晶する。
突つこんで行くまへに恐怖がある。
假面に對する臆病がある。
用意とは勇氣を養ふことだ。
臆病者にとって自然は永久に未知の鬼である。