萩原朔太郎\绝望的逃走\絶望の逃走
絶望の逃走
おれらは絶望の逃走人だ
おれらは監獄やぶりだ
あの陰鬱な柵をやぶつて
いちどに街路へ突進したとき
そこらは叛逆の血みどろで
看守は木つ葉のやうにふるへてゐた。
あれからずつと
おれらは逃走してやつて來たのだ
あの遠い極光地方で 寒ざらしの空の下を
みんなは栗鼠のやうに這ひつた
いつもおれたちの行くところでは
暗愁の、曇天の、吠えつきたい天氣があつた。
逃走の道のほとりで
おれらはさまざまの自然をみた
曠野や、海や、湖水や、山脈や、都會や、部落や、工場や、兵營や、病院や、銅山や
おれらは逃走し
どこでも不景氣な自然をみた
どこでもいまいましいめに出あつた。
おれらは逃走する
どうせやけくその監獄やぶりだ
規則はおれらを捕縛するだらう
おれらは正直な無頼漢で
神樣だつて信じはしない、何だつて信ずるものか
良心だつてその通り
おれらは絶望の逃走人だ。
萩原朔太郎\绝望的逃走\絶望の逃走
逃走する
逃走する
あの荒涼とした地方から
都會から
工場から
生活から
宿命からでも逃走する
さうだ! 宿命からの逃走だ。
日はすでに暮れようとし
非常線は張られてしまつた
おれらは非力の叛逆人で
厭世の、猥弱の、虚無の冒涜を知つてるばかりだ。
ああ逃げ道はどこにもない
おれらは絶望の逃走人だ。