樹木
樹木は 秋をいだきて
明るき 沈默にいざなふ
「黄」は 日の光にまどろみ
樹木は かすかなる呼吸を
日の光に とかさむとす
この時 人は 樹木と共に
秋の前に うなだれ
その中に 通へる
やさしき「死」を よろこぶ
芥川龍之介 大正四年(一九一五)十二月三日宛井川恭書簡
Trees
The trees harboring a fall
With the bright silence, falling under its call
In sunlight the "Yellow" slumbers
Breath of trees fainting
In sunlight, melting
It's when one, along with the trees
Facing the fall, droop their faces
And through the resonance
At the gentle "Death", they rejoice
Akutagawa Ryunosuke, excerpted from letter to Igawa Kyo
「子規の墓のある大龍寺にも銀杏の黃色くなつたのがある 生垣の要もち それから杉 それだけが暗い綠をしてゐる あとは黃いろばかり」
萩原朔太郎\苍青色的马\蒼ざめた馬
苍青色的马
在冬季多云的 封冻气象之下
在如此抑郁的自然之中
沉默地吞食着路缘草叶的是
悲惨的 支离的 宿命的 因果的 苍青色的马的影子
我向那影的方向动身行去
马的影子仿佛正将我注视。
啊啊快行动起来从此处离去
从我那生涯的银幕当中
此刻 此刻便远离并消去这幻影吧
去相信我的【意志】吧。马啊!
因果地 宿命地 常规地 悲惨地
令那苍青色的影子
从绝望封冻的风景干版中逃离。
* 逃走しろ:逃走的命令形。
蒼ざめた馬
冬の曇天の 凍りついた天氣の下で
そんなに憂鬱な自然の中で
だまつて道ばたの草を食つてる
みじめな
しよんぼりした 宿命の 因果の 蒼ざめた馬の影です
わたしは影の方へうごいて行き
馬の影はわたしを眺めてゐるやうす。
ああはやく動いてそこを去れ
わたしの生涯(らいふ)の映畫幕(すくりーん)から
すぐに すぐに外(ず)りさつてこんな幻像を消してしまへ
私の「意志」を信じたいのだ。馬よ!
因果の 宿命の 定法の みじめなる
絶望の凍りついた風景の乾板から
蒼ざめた影を逃走しろ。
萩原朔太郎\鸦羽的妇人\鴉毛の婦人
鸦羽的妇人
鸦羽的温柔妇人啊
秘密地访问我的阁楼吧
妳是充溢着麝香娇艳味道的
不可思议的夜鸟
悲寂地在木椅上停驻
那长喙将心脏啄食 静谧地热泪盈眶
夜鸟啊
这难耐的恋情是从何而生的呢
快脱去你那抑郁的衣装 向那夜露的风中飞去吧。
* 乌鸦羽毛的妇人:说不清是身披还是长有。
鴉毛の婦人
やさしい鴉毛の婦人よ
わたしの家根裏の部屋にしのんできて
麝香のなまめかしい匂ひをみたす
貴女(あなた)はふしぎな夜鳥
木製の椅子にさびしくとまつて
その嘴(くちばし)は心臟(こころ)をついばみ 瞳孔(ひとみ)はしづかな涙にあふれる
夜鳥よ
このせつない戀情はどこからくるか
あなたの憂鬱なる衣裳をぬいで はや夜露の風に飛びされ。
萩原朔太郎\鸣啭之鸟\囀鳥
鸣啭之鸟
清风拂面的日子
我沉浸在黯淡抑郁的思维当中
并在静林深处的落叶小道上前行着。
碧空如洗
注视着赤松梢处正纷杂高鸣的鸟。
愉快的小鸟挺起前胸
再度改变了那情绪的音调。
啊啊 在过去的我烦闷的冥想当中 在那环境当中而生的
今日的情感为何要被如此地翻腾
明明就算在那人生当中
也并未失去任何事物。
在那人生当中 我所失去之物仅是安闲
啊啊然而 正失去的是何等漫长的安闲啊。
* かつて:过去、一次都、完全、任何。
囀鳥
軟風のふく日
暗鬱な思惟(しゐ)にしづみながら
しづかな木立の奧で落葉する路を歩いてゐた。
天氣はさつぱりと晴れて
赤松の梢にたかく囀鳥の騷ぐをみた
愉快な小鳥は胸をはつて
ふたたび情緒の調子をかへた。
ああ 過去の私の鬱陶しい瞑想から 環境から
どうしてけふの情感をひるがへさう
かつてなにものすら失つてゐない
人生においてすら。
人生においてすら 私の失つたのは快適だけだ
ああしかし あまりにひさしく快適を失つてゐる。
芥川龙之介\树 木\樹 木
树 木 一九一五年十一月十六日
树木 环抱着秋天
被明亮的 沉默所引诱
【鲜黄】 在日光中浅睡
树木 将那微弱的呼吸
逐渐 在日光中叠加着
在那时 人 和树木一起
在秋天面前 俯首
从那中间 通过
令温柔的【死】 喜悦
いざなふ:【誘ふ】:さそう。導く。
いだき【抱】:(動詞「いだく(抱)」の連用形の名詞化) だくこと。
とかさむとす:暂时存疑
通へる:通ふ。通行,(言语/心灵)相通。非常了解。
樹 木 一九一五・一一・一六
樹木は 秋をいだきて
明るき 沈默にいざなふ
「黄」は 日の光にまどろみ
樹木は かすかなる呼吸を
日の光に とかさむとす
この時 人は 樹木と共に
秋の前に うなだれ
その中に 通へる
やさしき「死」を よろこぶ
芥川龙之介\性 欲\性 慾
性 欲 一九一五年十一月十八日
——金色的三日月。
——森林的高大树木 在天空之下 建筑着 三角的 尖细屋顶。森林是 天鹅绒。天空是黑缎子。在那之上 金色的三日月。
——在那森林中 跳着舞的 美丽的女人们。女人们起舞的时候 影子便跟着舞蹈 在那之上 金色的三日月。
——是谁。在那时候 从森林深处 披着魔物的皮 爬行着前来的是谁。脱去那皮的话
性 慾 一九一五・一一・一八
――金いろの三日月。
――高い森の木が 三角な 細い屋根を 空の下で 造つてゐる。森は 天鷲絨。空は黑繻子。その上に 金いろの三日月。
――その森の中で 踊りをおどる うつくしい女たち。女たちが踊れば 影も踊る その上に 金いろの三日月。
――誰だ。その時 森の奧から 魔の皮をかぶつて はつて來るのは。皮をぬげば
芥川龙之介\故里之歌\ふるさとの歌
芥川龙之介\故里之歌\ふるさとの歌
在女性的梦里有湖水的声音
和天鹅的歌一起传来
怀念的湖水的声音
月亮中有睡莲开放的湖水的声音
成为了卑贱的男人的妻子的少女
眷恋着那湖水
虽然每日都在独自哭泣
但不知何时就会回到那湖中的吧
侧耳倾听吧
在你的魂魄的黄昏里也
能听见有微弱的啜泣声吧
侧耳倾听吧
在你的心的角落里也
能听见天鹅之歌在鸣响着吧
四下无人之时女性哭泣着
在树叶变黄的橡树之下
在系着白马的橡树之下
一九一四年六月二日
R.AKUTAGAWA
狹丹塗:さ‐にぬり【さ▽丹塗り】:赤く塗ること。 また、塗ったもの。 にぬり。
耳無山:耳成山口神社だが、鳥居の扁額に「耳無山 山口神社」とあった。
小田:小田神社(おだじんじゃ)は、滋賀県近江八幡市小田町にある神社。
芥川龙之介\故里之歌\ふるさとの歌
七年前七个人
来这国家的大海游玩的时候——
沐浴在海水中
为歌唱天鹅之歌而来的时候――
海水很温暖
沙子上开放着蔷薇
五月的日光
仿佛珍珠之雨一样倾泻而下——
七人脱去了天鹅的羽衣
一边歌唱天鹅的歌
一边沐浴在海水里的时候——
在七位少女正在沐浴的时候
卑贱的这个国家的男人悄悄地靠近沙丘的影子
将羽衣中的一件
不知何时偷走了
——这是何等肮脏的行为啊——
因卑贱男人的气息而慌乱
七人慌忙地穿上了羽衣
变成了天鹅的样子飞走了
——就像听到了野漆弓的声音一样――
向天空飞去的是六只
穿上了羽衣的是六人——
最小的妹妹被偷走了羽衣
就这样光裸地站在沙地上哭泣着
思念着在那个时候
被那个卑贱的男人诱拐了的最小的妹妹
六只天鹅在湖面的天空里
一边数着七颗星星一边等待着
最小的妹妹只要成为她丈夫的卑贱男人不在
就会不停的啜泣
一边哭泣一边看着傍晚的红色天空
在树叶颜色变黄的橡树之下
成为了卑贱的男人的妻子的那位女性
不知何时会能够再次回到
座落在天空尽头的大湖里
那六个姐姐在等待着的湖里吗
芥川龙之介\故里之歌\ふるさとの歌
故里之歌
TO MR.IKAWA
四下无人之时女性哭泣着
在树叶变黄的橡树之下
在系着白马的橡树之下
无人知晓她为何哭泣——
在树叶变黄的橡树之下
注视太阳沉落后的薄红天空
无论何时女性都在哭泣
你贵重的青玛瑙勾玉
被耳无山的白兔偷走了吗
你丈夫的红漆箭
被那小田的鸟儿叼走了吗
无人知晓她为何哭泣——
两手捂着脸啜泣着的
呜咽着的女性
正眺望着遥远夕阳的天空
你不要如此哭泣啊
你手腕上所戴的金手镯
也将因为消瘦而渐宽吧
你不要如此哭泣啊
女性没有要停止哭泣的样子
这一定是因为
在遥远夕阳的天空里
正住着你的六个姐妹吧
六姐妹在等着女性的到来
在等着最小的妹妹的女性的到来
在天空尽头的大湖里
湖上浮着的六羽天鹅
在等待女性的到来
正浮在碧玉的水上
在等待妹妹的到来
萩原朔太郎\怠惰的日历\怠惰の暦
怠惰の暦
いくつかの季節はすぎ
もう憂鬱の櫻も白つぽく腐れてしまつた
馬車はごろごろと遠くをはしり
海も 田舍も ひつそりとした空氣の中に眠つてゐる
なんといふ怠惰な日だらう
運命はあとからあとからとかげつてゆき
さびしい病鬱は柳の葉かげにけむつてゐる
もう暦もない 記憶もない
わたしは燕のやうに巣立ちをし さうしてふしぎな風景のはてを翔つてゆかう。
むかしの戀よ 愛する猫よ
わたしはひとつの歌を知つてる
さうして遠い海草の焚けてる空から 爛れるやうな接吻(きす)を投げよう
ああ このかなしい情熱の外 どんな言葉も知りはしない。
思ひ出 恒藤恭
Memory by Tsuneto Kyo
ほのかなる思ひ出あり
あざやかなる思ひ出あり
いきどほろしき思ひ出あり
いともかなしきおもひ出あり
There is memory that‘s dim
Memory vivid
Memory dreadful
And memory immensely sad
今もなほ胸ふくらむごとき
おもひ出あり
思ひ出づるもはづかしき
おもひであり
Still, even now, memory
Filling my heart there is
And memory embarrassing
When I recall
おもひでこそは
いとほしく
はかなきものか
Is memory nothing but
That of painful
And fleeting?
来る日も来る日も
わづらはしき世の務めに
あわただしくも
過ごしつつ
Days go by and by
By the duties of the troubled world
Amid hustle and bustle
Disappearing they all go
時ありて
おもひ出の網をたぐりよせ
忘却の海に
立ち向かひつつ
寄せてはかへすしら浪の
しぶきの中に
すなどる人の
わがすがたかも
There are times when
One hauls the net of memory
In the sea of oblivion
While standing confronting
The white waves rushing come and go
Among the splashes
The figure may be
I who do so.
「旧友芥川龍之介」より
From the memoir "My Old Friend Akutagawa Ryunosuke"
萩原朔太郎未发表手记一篇
私にとつて、このいちばん哀しい出來ごとは、言葉の紛失である。
言葉に羽が生え、行く方も知らに羽が生え、遠い虚無の世界へ失 踪する。日ぐれに及び嘲笑と侮辱と絕望との谷間に殘されて居る詩をつくらざる詩人がある。
祈る、その祈禱の斷末魔、
みよあらゆる美しいもの、光輝あるものは失はれた。
夜間に及び、月の出のまへに銅像がある。變質せるところの、純金より酸廢せるところの醜い銅製の怪物がある。言葉を失へる詩人がある。悲慘なる、祈禱せる、頹廢せる自分自身の呪ふべき幻影がある。
私は健康を愛する。けれども疾患を愛する。
疾患に於てその實體を變質されたるところの物象は、より多くの 霊性とより多くの光輝性とに於て全く新らしい有機體を化成する。
何となれば私の疾患は私自身の戀魚と交歡する理由を以て、光らずして却つて犬、狼、魚及びその他もろもろの动物、菊、松、堇 その他もろもろの草木と交感會食する由所に於てそれ自身の靈性 を發光するがためである。
萩原朔太郎未发表手记一篇
对我来说,最为哀痛之事,乃是言语的纷失。
言语生出羽翼、生出不知所向的羽翼、在遥远而虚无的世界消去了身形。所徒留在日暮的、嘲笑与侮辱与绝望的谷间的,仅有才思枯竭的诗人而已。
祈祷,然而在那份祈祷的临终、
看啊、所有美丽之物、光辉之物尽皆灭失。
铜像伫立在暮夜与皓月之下。那变质之处比起纯金更像是酸废的、丑陋的铜制怪物。乃是失去了言语的诗人、悲惨的、祈祷的、颓废的、将自身也一并诅咒的幻影。
我爱着健康。
然而也爱着疾病。
患有疾病的实体那变质之处的物象、存有比原来更多灵性与光辉,以至于化为了全新的有机体。
这是为何我的疾病是我自身与恋鱼交欢的理由;纵使无光、此身却与犬、狼、鱼及其他各种动物、菊、松、堇及其他各种草木交感会食、他们所持有形形色色的灵性使我发光。
"如果诗歌是人魂的碎片 那么翻译就是将这些碎片再度唱响"
以萩原朔太郎为主,日本近现代文豪的诗歌翻译魂器。
管理者:@mykaoru